本会は本年1月より公益法人化いたしました。これまでの活発な活動に実質的な制約を新たに課することもなく、速やかに移行できましたことは、これまでの活動が十分公益性を保持してきた証であり、それを支えてきた本会の理念と活動実績に大きな誇りを感じております。
今さら申すまでもなく、東日本大震災、そしてそれに続く原発事故は、私たちに様々のリスク対応戦略の重要性を再認識する契機となりました。本会に関係するリスクとして真っ先に挙げられますのは電源喪失リスクでしょう。電気エネルギーの生産・貯蔵・供給の総合技術は本会の根幹をなすものであります。次に挙げられるのは、水不足リスクでしょうか。海水や汚水から飲料水を作る膜分離技術を例に挙げれば、その基本は拡散と輸送の問題であり、電気化学反応速度の問題と基を一にするものと考えられます。さらに深刻なリスクとして健康障害リスクを挙げないわけにはいかないでしょう。物心両面でのストレスは病名のわからない体調不良の原因になる可能性が高いと思われます。健康状態を簡便迅速に測定する方法論は化学センサーやバイオセンサーの中心課題であります。追い打ちをかけるように放射線被爆リスクがクローズアップされました。電気化学反応場で核内エネルギー準位を制御することは原理的に不可能と知りながら、それでも放射能消滅技術の可能性を改めて探ってみようという方が出てくるかも知れません。
リスク対応の現場では、科学的な正解が誰にもわからない状態でも、行政的規制の必要上、明確な数値を示さなければならないことが多々あります。その際、重要なことは、どこまでが科学的でどこから先が科学的ではないかを明確に理解しておくことだと思います。その上で、この科学的と言えるレベルを如何にして高くするか、ということが科学技術者の使命になるのです。上述の様々のリスクは、電気化学の立場からこの科学的レベルを一気に引き上げるべし、とのメッセージと考えています。新たなリスク対応戦略は単純な成長戦略では語れません。むしろ、伝統的な技術、一時代前の社会で機能していたシステムに、もっともっと目を向けるべきかも知れません。それが、意外にも先進的アイデアの源泉かも知れません。突拍子もなく面白い温故知新アイデアがでて、それが予想もしなかった先進的電気化学分野の新しい芽となるかも知れません。本会は、十分それを予感させてくれる学会です。
この度、公益法人化しましたことを期に、エネルギー、環境、健康、等において顕在化したリスクに向き合い、さらには将来的に起こり得るリスクを洞察し、一層の社会貢献を成すべく、努力していく所存であります。今後ともどうぞよろしく本会へのご理解、ご支援をお願い申しあげます。