会長挨拶「創設90周年を迎えて―産官学のいずれにも魅力のある学会を目指して―」

井手本 康
東京理科大学副学長
理工学部教授
電気化学会は1933年に設立され、今年で創設90周年を迎えます。この間、電気化学および工業物理化学における学問、技術は飛躍的な進歩を遂げ、産業界も時代による多様な変化に対応しつつ、本会のカバーする領域も多岐にわたって飛躍的に増加しています。本会は、多くの先人の献身的な努力、貢献、成果によって支えられてきており、時代による様々な状況の変化および急速な進歩に対応しつつ、この分野の発展に大きく貢献しています。最近の大きな変化としては、2012年1月より公益社団法人となり、それに合わせた学会運営の在り方が求められていることです。
私は1984年に電気化学会に入会し九州大学で初めて学会発表を行ってから40年目を迎え、本会の場を通じて研究者として育ててもらい、様々な委員、役員になってからも先人らと共に行う学会活動を通じて様々な姿を見つつ学んできました。時代および環境の変化と共に山あり谷ありの変遷を経ながら、一貫して様々な世代を跨いで活動し、他の学会にないフレンドリーで居心地の良いソサエティと感じています。このような長い伝統、歴史のある本会の会長として少しでも貢献していければと思っています。
90周年事業は、高山前会長のもと、90周年事業実行委員会を中心にして創設100周年を見据えて様々な事業を進めています。特に90周年事業クラウドファンディング(CF)においては会員、産業界に寄付を募り目標を上回る多くの寄付をいただき、関係した方々のご尽力の賜物といえますが、本会の絆を改めて感じることができました。ご芳志は電気化学会DX,産官学連携企画等で活用されます。本会の過去の貴重な書誌をデジタル化し、後世に残し一般公開する電気化学デジタルアーカイブス(DA)、本会の将来を展望する若手意見交換会、今後重要になるカーボンニュートラルに関する講演などが一般向けに開催されます。これら本事業の企画の一部は電化誌3月号、9月号に掲載されます。過去から未来、産官学の連携、学会の継続性に重要な若手の意見交換会などを通じての人材育成、昨今推進されているDX化も取り入れた事業になっています。
今後、世の中で重要とされているSDGs, カーボンニュートラル、自動車のEV化といずれも電気化学の分野が大きく係るものです。このような背景のもと、産官学に対して、この分野に係る大型のプロジェクトが走り研究開発費として多くの国費も投入されています。これらを達成するには産官学の連携が不可欠であり、その中心的な役割を果たせるのが本会です。産官学の連携強化も田中元会長の頃から意見交換会の取り組みが復活、開始されました。その後、3年間のコロナ禍で学会活動も大きな影響を受け、それまでの活動の多くが制限されました。この間、桑畑元会長、高山前会長の元、様々な工夫を重ねて学会活動の新しい姿を導入しながら乗り切ってきました。コロナ禍は、学会もそうですが、大学、会社に対して苦難を与えましたが、新しいツールを手に入れて多様な形態で取り組むことが可能になりました。その一方で、学会の懇親会、委員会(その後の意見交換会)など対面でコミュニュケーションを取ることの大切さが再認識されました。アフターコロナにおける様々な活動が今年度はおそらく再開できると思います。産官学の連携の重要性を念頭におきつつ、いずれの人にとっても魅力のある学会、コミュニュケーションを大事にするフレンドリーな学会にしていきたいと思います。公益社団法人ならではの課題もあり、様々な施策に対してPDCAサイクルを回して改革していければと存じます。そのためには会員の皆様の忌憚のない意見をいただき、ご理解、ご協力の下、学会を盛り立てていけるよう、よろしくお願いいたします。