会長挨拶「変革の時代における電気化学会」

本会2022年度会長
高山茂樹
旭化成株式会社
顧問

今年度、歴史ある電気化学会の会長を拝命し身の引き締まる思いです。さてVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity. 変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と言われる将来の読めない時代において社会の最大の関心ごとは環境問題であります。そしてそのキーとなるサイエンスこそが電気化学であると思います。日本の電気化学を主導する電気化学会が今後どのように社会に貢献していくのか、とてもワクワクしています。

2019年に電池の分野で吉野彰博士がノーベル化学賞を受賞されたのはこの象徴でした。また余談ですが、吉野彰さんが幼いころ影響を受けたと評判になった「ロウソクの化学」の著者こそ、電気分解に魅せられ、その法則を確立したファラデーその人です。

さらに歴史を紐解くと、1907年に日本の電気化学工業の父とも言われる野口遵は水力発電による電気を使ったカーバイドの製造を開始し、1923年には電解水素を用いたアンモニアの合成へと発展させました。これらの事業は後のチッソ、旭化成、積水化学、信越化学へと引き継がれていきました。また1930年には電気化学会の初代会長である加藤与五郎博士と武井武博士により世界的偉業であるフェライトが発明され1935年に東京電気化学工業(現在のTDK)により事業化がなされ、無線通信の実用化に繋がりました。このように電気化学の分野では古くから学術界と産業界が連携し、その時代の要求に技術革新で応えることで、社会の発展に大きな貢献を果たしてきた歴史があります。

そのような歴史的な背景をもとに、前会長の桑畑先生がいつも提言されていた通り、本部、支部、委員会、懇談会等の素晴らしい活動がワンチームとなり、そして産官学がワンチームとなり、電気化学のサイエンスを通して難しい課題に果敢に挑戦し続けることが望まれます。そしてさらなる多様性にも挑戦する必要があります。日本は元来島国であったことから、世界から見て多様性に遅れていることは否めません。それぞれが担う分野のなかで同質的な社会を形成し、話が通じる人同士での会話を得意とする一方で、領域や文化の異なる人と交わす対話を苦手としてきました。例えば産、官、学においてもそれぞれのミッションにフォーカスすることを優先するあまり、時にはぶつかり合うことを避けて来たようにも思います。サイエンスの在り方についても同じことで、今後は異なる学問領域のぶつかり合いがますます重要になってくるかもしれません。イノベーションは知の探索によって産み出されると言われています。知の探索とはなるべく離れた知と知をぶつけ合うことです。例えば他の学会、他国の学会、さらには人文科学との交流など知の探索の機会は本学会の外にもたくさんあります。

話は変わりますが、先日、吉野彰さんから元気の出る話を聞きました。現在、地球規模で関心と要求が高まるカーボンニュートラル実現のためには環境・利便性・経済性のトリレンマに解を出す必要があり、それには古典的な化学のイノベーションこそが重要であるとのことです。そこで注目すべきは、第一に再生エネルギーにより電気を効率的に創る技術、第二に創った電気を貯めて運ぶキャリアに関する技術とのご意見でした。いずれも電気化学のサイエンスそのものです。そして私は、さらに電気化学をベースにした新しいマテリアル合成も重要な第三の技術であると思います。電気化学におけるイノベーションはトリレンマを解決し、日本に様々な新しい事業を産み出す可能性を秘めています。

最後に、現在産業界における最もホットなトレンドはデジタル・トランスフォーメーション(DX)です。私の理解ではDXとは単なるITの活用ではなく、膨大なデータを解析することで今までは得ることのできなかった全体最適解を得て、それに向かって帰納的に実行施策を進めていくことです。このプロセスによって事業や社会そのものをトランスフォームしていくことが今まさに世の中で起こっていることです。この波は研究開発の分野においてもその方法論を大きく変革しつつありますが、私は電気化学におけるデータはこのプロセスに最も親和性が良いと思っています。デジタルの力も利用しつつ、電気化学におけるイノベーションで未来の子供たちに素晴らしい地球を残すことに少しでも貢献できるよう邁進してまいります。会員の皆様の率直なご意見、ご提言を心よりお待ち申し上げます。