論文誌Electrochemistryは2023年1月から英文誌として発行します
2022年5月23日
公益社団法人電気化学会
編集委員長 篠原寛明
Electrochemistry 編集長 加納健司
Electrochemistry では2023年発行のVol.91から完全英文誌とし,論文で使用できる言語を英語のみといたします.これに伴い,2022年8月末で日本語による投稿を停止し,9月以降は英語論文のみを受け付けます.以下に今回の決定にいたるまでの編集部の考え方をご説明するとともに,本会会員を始めとする投稿者の皆様のご理解をお願いする次第です.
論文誌の完全英文化の経緯
Electrochemistry は本会の前身である電気化学協会が創立された1933 年に会員の研究成果を発信する論文誌として創刊された学術論文誌「電氣化學」を端緒としており,来年の 2023年7月には創刊90周年を迎えます1.歴代の本会発行誌においては学術・技術的価値を高めるため国際的な情報発信の場として1958年に論文誌としてJournal of The Electrochemical Society of Japanが創刊され,初めて英文による論文が掲載されました.以来,本誌は論文・解説等を含め,のべ4780件の英文記事を収録しております.
一方でElectrochemistryは本会会員の情報発信の場であることから和文による論文投稿を受理・掲載しており,またその要望もあったことから完全英文誌とはしてきませんでした.しかしながら論文誌として「電気化学」と分離した2018年以降,和文による採択論文は4年余りで6報に限られ,年間を通して掲載がなかったこともありました.このように著者の視点からみても英文による情報発信が必要とされていることは必然であると言わざるを得ず,この状況からElectrochemistry 編集部でも慎重な議論の上,理事会(2022年4月21日:第65回理事会)の審議を経て今回の決定に至りました.
論文誌の改革-完全英文化によってもたらされるもの
本会では2020年から編集体制を一新し,同年5月には著者に著作権を帰属するオープンアクセスジャーナルとしました2.さらに2021年7月にはDOAJへの採録3,2022年4月に国際諮問委員(International Advisory Board Member)の任用を始めるなど,大幅な改革を進めています.
さらに論文誌のアクセス動向を調査したところ(J-STAGEの編集機能4),Webサイトへのアクセス数のべ1,409,977回(2021年内)のうち,海外からのアクセス数は698,034回(同)とほぼ半数に達しており(図1),本会の国際的な情報発信の場として活用されていることが示されています.
図1. Electrochemistry の記事ダウンロードの国別分布4.
編集部はこの改革の方針を継続的に行うことにより,論文誌としての質の保証のための組織的な体制を取り,国際情報発信力を強化する取組を進めていく必要があると考えています.完全英文化を図ることにより,日本学術振興会から交付される科学研究費補助金(科研費)の科学技術公開促進費(国際情報発信強化)5への申請が可能となります.論文誌の国際情報発信に向けた編集企画の充実,編集体制の強化,さらには著者が投稿する際に最も重要な指標となるJournal Metricsの正確な把握と各種データベースとの連携の強化を図るため,科研費の申請を視野にいれた活動を進めて行きます.
論文誌の完全英文化に対する学会の対応について
和文論文の受付を停止することに対して本会では当面,下記の対応を検討しております.
・投稿の準備に関わる情報・審査・査読においては日本語での掲載・情報交換を継続します.
論文誌を完全英文化した場合でも,当面は投稿者の多くは日本語を母国語とする方が多いと予想されます.そのため,投稿規定・投稿の手引きの日本語版6,7の提供は継続します.また投稿・審査システムEditorial Manager8における言語として日本語は継続して使用可能とします.
・全文HTML化により,自動翻訳による内容把握が容易になっています.
Electrochemistry は 2022 年発刊の Vol. 90から全文HTML化を完了しており,Webブラウザにより容易に論文を閲覧できるとともに,一般に用いられる自動翻訳により,容易に論文の内容把握ができるようになっています.すでに実現している機能ではありますが,完全英文化後も引き続きHTML による論文掲載を継続していきます.
・論文投稿時の英文校閲・英文翻訳の紹介を進める予定です.
Electrochemistryにおいてはすでに95%の論文が英文での投稿であることから,英文での投稿に対する壁はそれほど高いものではなくなっています.しかしながら,初学者にとっては専門用語や構文に関する英文校正が必要と感じられる原稿がしばしば見受けられます.著者への直接的な支援ではありませんが,英文校閲や英文翻訳の際の業者紹介や連携を進めることを検討しております.また,プレプリントサーバーの活用を勧めることにより,本投稿までに内容をブラッシュアップする機会を得ていただくよう,2022年3月にJST により公開されたプレプリントサーバーJxiv9 との連携を図ります.
以上の取り組みを通して,Electrochemistryの国際情報発信力がより強化されることを目指します.今後とも益々のご支援とElectrochemistryへの投稿をよろしくお願い致します.
文 献
- 電気化学会編集委員会, 電気化学, 87, 433 (2019).
https://doi.org/10.5796/denkikagaku.87-F2 - 加納健司, 電気化学, 88, 176 (2020).
https://doi.org/10.5796/denkikagaku.20-OT0031 - 水畑 穣, 電気化学, 89, 388 (2021).
https://doi.org/10.5796/denkikagaku.21-OT0050 - J-STAGE センター, J-STAGE 発行機関向けダッシュボードリリースノート
https://www.jstage.jst.go.jp/static/files/ja/pub_release_20220324_3.pdf - 日本学術振興会, 科学研究費助成事業・研究成果公開促進費
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/13_seika/index.html - Electrochemistry 誌論文投稿規定
https://journal.electrochem.jp/instructions/policy_ja.pdf (2022 年4 月10 日). - Electrochemistry 編集部, Electrochemistry, 89, S1 (2021).
https://www.editorialmanager.com/electrochemistry/ - JST プレプリントサーバー,
https://jxiv.jst.go.jp/
*本公告は電気化学Vol.90, No.2(6月5日刊行)に掲載予定です.著者の手引き7の改訂は6月頃に行い,8月に発効の予定です.